ChatGPTをはじめとして、生成AIの飛躍的進化は、文章作成や画像生成など、私たちの生活や働き方を劇的に変えようとしています。
特に、顧客対応の自動化や、新しいコンテンツの生成など、ビジネスシーンにおける活用が注目されていますが、その一方でハルシネーションやプライバシー侵害など、生成AIのリスクに着目する企業も増えはじめました。
この記事では、このようなリスクを軽減し、生成AIを安全かつ効果的に活用するための生成AIガイドラインについて解説します。生成AIガイドラインの作り方や、実際に導入している企業の事例も紹介します。
生成AIとは
生成AIは、与えられた情報をもとに新たなコンテンツを創り出すAI技術です。
生成AIは人間の脳神経回路を模倣した「ニューラルネットワーク」と呼ばれる仕組みを用いることで、まるで人間が創作したかのような自然な文章やリアルな画像・動画を生成できます。
生成AIの起源と進化
生成AIの起源は、1960年代のチャットボット「イライザ」にまで遡ります。
生成AIの進化が加速化したのは、機械学習の一つ・ディープラーニングの登場以降です。
特に、2012年の画像認識コンテストにおいて、ディープラーニングモデルが従来のモデルを大きく凌駕する精度を達成したことが大きな転換点となりました。
その後、2017年にGoogleが発表したトランスフォーマー論文やアテンション技術により、生成AIは自然言語処理の分野で飛躍的な進歩を遂げます。
近年では、ChatGPTをはじめとする生成AIが登場し、GPT-4Vは画像認識機能や音声認識機能が追加されるなど、生成AIの活躍できる範囲が大幅に広がってきました。
生成AIの注意点
生成AIの利用時には、事実と異なる情報を生成する「ハルシネーション」に注意しましょう。
特に、専門的な知識や事実関係を必要とする分野においては、必ず専門家による確認や、複数の情報源による裏付けを行うなど、出力内容の信ぴょう性を確認しなければいけません。
また、生成AIは学習データに基づいて生成を行うため、既存のキャラクターに類似した画像を生成するケースもあります。その画像を商用利用した場合、著作権侵害に該当する可能性があるので注意が必要です。
ProSkilllの生成AIセミナーでは、生成AIのリスクや適切なプロンプトの入力方法、アプリ開発など幅広く学習します。受講形式は、ニーズに合わせて会場とオンラインの2種類から選択可能です。
安全に生成AIを活用するためにも、ぜひ以下のセミナーで知識を深めてください。
受講期間 | 2日 |
受講形式 |
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受講料金 | 各38,500円 |
生成AIを使うリスクについては、以下の記事で詳しく解説しています。
生成AIのリスクで重視したいのが著作権法違反です。
生成AIの著作権侵害の判断基準については、以下の記事で詳しく解説しています。
生成AIガイドラインとは
生成AIガイドラインとは、生成AIを安全かつ効果的に利用するための指針です。
生成AIは、その使い方によって大きな効果を得られ、反面大きなリスクも潜んでいます。
これらのメリットを最大限享受し、デメリットを防ぐためにもガイドラインに沿って適切に生成AIを使うことが重要なのです。
生成AIガイドラインの役割
生成AIガイドラインの役割は、主に「従業員向けマニュアル」「悪用防止」の2つです。
マニュアルとしては、さまざまな生成AIサービスの使い方を統一し、従業員間の知識のばらつきを減らして円滑な運用を実現します。悪用防止の側面では、機密情報の漏洩や著作権侵害といったリスクを抑えるためのルールを設定しています。
より理解を深め、悪用防止効果を高めるためには、入力するデータの制限や生成されたデータ使用に関して詳細に記載することが重要です。
企業内の生成AIガイドライン作成手順
企業で生成AIの導入を成功させるためには、適切なガイドライン策定が重要です。
以下では、効果的な生成AIガイドライン作成の手順を解説します。
ステップ1. ガイドライン作成の準備
組織での生成AI活用を成功させるには、まず生成AIの導入目的、期待される効果、想定されるリスクなどを明確にしましょう。
この段階で、関連部署の担当者による多角的な視点から検討し、組織の価値観やビジョンと整合性のとれたガイドライン策定の基本方針を定めます。
ステップ2. 記載事項の特定と整理
生成AI導入のガイドラインに記載する事項に規定はありませんが、一般的には以下の要件を含めることが推奨されます。
- 利用する生成AIツール
- 生成AIを利用する際のルール
- 生成AIツール利用における留意点
- セキュリティ対策の基準と手順
- 誤作動・トラブル発生時の対応フロー
- 責任者と利用部署の明確化
- 教育・研修に関する方針
生成AIを利用するルールは、具体的な内容で記述することが重要です。
入力して良いプロンプト、入力してはいけないプロンプトなどを具体的に列挙すると、従業員にルールを正しく伝えられ、誤利用によるトラブル防止にもつながります。
ステップ3. 実践的な活用方針の策定
続いて、各部署での具体的な活用シーンを想定し、実務に即した指針を作成しましょう。
業務効率化が期待できる領域やリスクが高い領域を明確に区別し、適切な利用基準を設定します。
この段階で部署ごとの特性を考慮し、柔軟性のある運用ルールを策定することで、実効性の高いガイドラインとなります。
ステップ4. ガイドラインの作成とレビュー
ガイドライン作成後は、各部署の担当者からフィードバックを収集しましょう。
特に、現場での実用性や理解のしやすさを重視し、必要に応じて具体例を追加するなど、実践的な内容に改善していきます。この過程では、法務部門やコンプライアンス部門との連携も行ってください。
ステップ5. 展開と運用
続いて、完成したガイドラインをもとに、組織の行動指針として機能させましょう。
まずは、部門別の説明会や実践的なトレーニングを実施し、AIの適切な利用方法を組織全体で共有します。
定期的なモニタリングを通じて、ガイドラインの実効性を確認し、必要に応じて改訂を行うことも重要です。
ステップ6. 継続的な改善
AI技術は急速に進化しており、社会環境も変化し続けています。
そのため、ガイドラインは固定的なものではなく、常に見直しと更新が必要です。
利用者からのフィードバックや新しい技術動向を積極的に取り入れ、より実効性の高いガイドラインへと発展させていきましょう。
国・地方自治体の生成AIガイドラインの事例
国や地方自治体では、独自の視点で生成AIに関するガイドラインを策定・公開しています。
機関名 | ガイドライン名 | 主な内容 |
経済産業庁 | コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック | 生成AIの導入方法や法的リスク、知的財産権問題など |
デジタル庁 | テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版) | ユースケースごとのリスクや留意点など |
東京都デジタルサービス局 | 文章生成AI利活用ガイドライン Version 2.0 | 都職員に対する適切な生成AIの活用法など |
愛知県 | 生成AIの利用に関するガイドライン | 具体的な活用例や情報漏洩、ハルシオンのリスクなど |
経済産業庁
経済産業省は、2024年7月にコンテンツ産業の活性化を目的として、「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」を公表しました。
このガイドブックは、ゲーム、アニメ、広告などのコンテンツ制作企業が、生成AIを導入する際の企画段階からサービス選択、法的リスクの検討、社内ルール策定まで、一連のプロセスを公開しています。
知的財産権に関する問題にもスポットを当て、具体的な事例と対策を提示し、企業が安心して生成AIを活用できるようサポートしています。
参照:経済産業庁「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」
デジタル庁
デジタル庁は、デジタル化社会促進に向け、各省庁への生成AI導入を視野に入れ、「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」を公開しました。
このガイドブックは、2023年12月からの技術検証結果を踏まえ、利用形態やユースケースごとの具体的なリスクや留意点が記載されており、今後も継続的な更新が予定されています。
対象は生成AI導入に関わる行政職員ですが、民間企業でも生成AI導入時のリスク検討の参考として活用可能です。なお、テキスト以外の生成AI(画像、動画など)については検証段階です。
参照:デジタル庁「テキスト生成AI利活用におけるリスクへの対策ガイドブック(α版)」
東京都
2024年4月、東京都デジタルサービス局は、生成AIガイドライン「文章生成AI利活用ガイドライン Version 2.0」を公開し、文章生成AIの特性とそのリスクを十分に理解し、都職員が業務で適切かつ効果的に利用するための指針を示しています。
具体的には、職員が共通基盤で利用することや研修受講の必要性、私物端末での利用禁止など、遵守事項が明確に示されています。
参照:東京都デジタルサービス局「文章生成AI利活用ガイドライン Version 2.0」
愛知県
愛知県は2023年11月、愛知県職員向けの生成AI利用ガイドライン「生成AIの利用に関するガイドライン」をまとめました。本ガイドラインでは、2040年頃の人口減少・高齢化に向け、持続可能な行政サービス提供のため生成AIの活用を推進しています。
活用例として、アイデア創出、Excelのコード作成、翻訳、文章作成補助などが挙げられており、その他、情報漏洩や不正確な回答のリスクも指摘しています。
日本ディープラーニング協会の生成AIガイドライン
一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)では、公式サイトで生成AIガイドラインのひな型を公開しています。
組織が生成AIを円滑に導入することを目的に公開
このひな型は、組織が生成AIを円滑に導入できるよう、2023年5月に第1版、同年10月には改訂版となる第1.1版が公開され、2024年2月には画像生成AI向けのガイドラインも追加されています。
公開されているガイドラインは、条項のみのバージョンと簡易解説付きのバージョンがあり、組織の必要に応じて選択可能です。
また、同協会では生成AIの効果的な活用には、ガイドラインの整備だけでなく、従業員一人ひとりのAIリテラシーの向上も重要と考え、G検定取得によるAI活用の質的向上を推奨しています。
G検定とは
G検定は、ディープラーニングをはじめとするAI技術の基礎知識と、ビジネスでの適切な活用方針を決定できる能力を認定する検定試験です。「G」はジェネラリストを意味し、AIの知識を幅広く習得することを目的としています。
G検定は、「JDLA認定G検定対策講座」を受講することで、試験に必要な知識を効率的に習得できます。JDLA認定講座は、試験範囲を網羅しており、短期間でAIの基礎から応用まで段階的に学習できる効率的なプログラムです。
受講期間 | 2日 |
受講形式 |
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受講料金 |
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企業の生成AIガイドラインの事例
続いて、一般企業の生成AIガイドラインを紹介します。
企業名 | ガイドライン名 | 主な内容 |
富士通 | Fujitsu生成AI利活用ガイドライン | 多様なユースケ―スの紹介、積極的導入の明確化など |
株式会社サイダス | 生成AIのガイドライン | 利用するツールの限定、禁止事項・注意事項など |
富士通
富士通では、2024年7月に富士通のグループ従業員向けに作成された生成AI利用ガイドライン「Fujitsu生成AI利活用ガイドライン」を公開しました。
本ガイドラインでは、文章、プログラムコード、画像、動画など多様なユースケースについて解説しています。同時に、誤情報、およびバイアスや偏見を含む可能性、著作権侵害、秘密情報や個人情報の漏洩、フェイクニュースなどのリスクも具体的に示してありました。
これらのリスクに対して、適切な確認とチェック、信頼できるサービスの利用、情報管理の徹底が重要であると示し、今後生成AIの積極的な導入を推進していくことを明示しています。
株式会社サイダス
株式会社サイダスは、2023年5月に「生成AIのガイドライン」を公開しました。
本ガイドラインは、株式会社サイダスの業務において、生成AIの適切な利用を促進し、法的リスクを未然に防ぐことを目的としたものです。
ガイドラインでは、利用する生成AIツールはChatGPTとOpenAI APIが対象で、その他の生成AI利用を希望する場合、技術本部に相談が必要であると記載されています。
禁止事項として、個人情報の入力、機密情報の利用を挙げ、虚偽情報の可能性、および著作権に関する注意事項も解説しています。
生成AIガイドライン策定時のポイントやコツ
生成AIガイドライン策定時には、まず生成AIを必要とする部署や業務を洗い出しましょう。
部門ヒアリングや業務フロー分析を適切に行うことで、文章作成、データ分析、アイデア創出など、業務効率化における有効度が大きく変化します。
ある程度洗い出した後は、具体的なユースケースを定義していくことが重要です。
導入時には、具体的な活用事例を列挙して、生成ガイドラインの対象者が効果的に活用できるように理解を深めましょう。
実際に導入した後は、定量的なデータ分析やヒアリングを実施し、ガイドラインの内容を改定することも大切です。
生成AIを使い続けることで見えてくる課題点もあり、また利用している中で新たな活用方法を発見することもあるでしょう。
常に、現場の声を反映しながらガイドラインを改定していくことで、生成AIの最大限の効果を発揮できます。
生成AIガイドラインについてまとめ
生成AIは、業務効率化、新たな価値創造など、使い方次第でビジネスの可能性を無限大に広げ、国や行政機関から一般企業までその活用分野は広がり続けています。
生成AIは簡単な操作で高度なタスクを自動化できる反面、生成AIが出力する情報の信ぴょう性、バイアス問題など、利用者側のスキルやモラルも問われはじめてきました。今後もさらなる企業が導入する中、そのガイドラインの策定動向に注目が集まると予想されています。
生成AIガイドラインを深く理解するためには、利用者一人ひとりが生成AIのスキルを習得することが重要です。
ぜひこの機会にProSkilllの生成AIセミナーに参加して、安全かつ効果的な活用方法を習得してください。